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1.Counter the encounter : Jyakurai SIDE

違法マイクと邂逅

【前編:寂雷SIDE】

      

「ふぅ…医学の進歩は何より優先すべきこと、それを利権などで停滞させてはならないにも関わらず、中王区の腐敗はやはりかなりのスピードで進んで……おや?」

共同研究の顔合わせの帰り道、シブヤの宮益坂から駅へと足を進める途中。生垣に倒れ込むようにして横たわっている人物を視認するが早いか、急いで駆け寄り声を掛ける。

「大丈夫ですか、しっかりしてください!」

二十代半ばの女性。抱き起こせばその体は熱く、呼吸は荒い。脈を測る。

診察するまでもなく、典型的な熱中症だった。

「…っ、はい、大丈夫です…」

か細い声ではあるが、意識があることに安堵の溜息を洩らす。意識のない場合、即座に救急車を呼ばなければならない。

「良かった。水を買ってくるので、此処で待って居……」

「あのっ、大丈夫ですか!」

振り返ると三十代前半と見える男性が立っていた。セミロングのパーマにカラフルなシャツ。その手にはスポーツ飲料。

「よかったらこれを」

「あ、ありがとうございます…」

駆けつけた男性と共に、女性を日陰まで運んで座らせる。苦しそうな表情を浮かべながらも、男から手渡された飲料をゴクゴクと飲んでいく様子を尻目に、その派手な容姿をした男性が口を開いた。

「僕、そこの角のデザイナー事務所の者なんです。ふと顔をあげたら、ちょうどお二人の姿が見えたもので」
「なるほど、それで急いで飲み物を持って来てくださったんですね。とても助かりました」

「もし良かったらですけど、事務所にソファがあるので少し休まれていきますか? クーラーも効いていますし、スポドリもまだありますから」

やはり世の中は捨てたものではない。そう思いながら、力なく頷く女性に手を貸して、その男性の小さな事務所へと連れて行く。

広くはない室内には無数の布やデザインの図式、ミシンなどが所狭しと並べられていた。

女性は礼を何度も述べ、事務所の奥のソファに横たわった。

「良かったら、お茶でもどうぞ」

「ああ、私にまでありがとうございます。貴方は本当に親切なのですね」

「いえいえ。困った時はお互い様と言いますから。それに──貴方にはとても敵いません。お噂はかねがね聞いています、神宮寺先生でいらっしゃいますよね」

ディビジョンラップバトル以降、道行く先々で声を掛けられることが多くなった。とはいえTDD時代からそれは大きく変わらない。

思えばあのチームが結成された時から、私の人生は大きく変わったように思う。初めてマイクを握り、ラップを学び、それは殺し屋稼業の自分では決して味わえない世界だった。

「私も貴方も、自分の出来ることをしているのですから、そこに大小はありませんよ」

「……出来ること、ですか。あの、実は神宮寺先生に、折り入ってお願いしたいことがあるんですよ。先生にしか出来ないことなんです」

「私にしか出来ないこと?」

「はい。率直に言うとですね、──飴村乱数を、倒していただきたいんです」

「……それはなかなか穏やかではありませんね? 一応お話だけは伺いますが」
「アイツは、俺の仕事を奪ったんです。俺のアイデアをパクった、お陰でアイツは今や売れっ子デザイナー、俺はこんな小さな事務所でロクに稼げもしない。本来なら俺があのポジションにいたはずなのに! 先生、貴方は今あの飴村と対立している。アイツを潰せば、今度のディビジョンバトルだってまたシンジュクが優勝しやすくなる、頼むからアイツを潰してください!」
 

椅子から立ち上がり激情する男は、更に飴村乱数への罵詈雑言をぶち撒けていく。既に眠りに落ちたらしい女性へ気を向けつつ、その豹変する様子を尻目に、男の言い分を踏まえて思案する。

確かに、飴村君と私は対立している。TDDを解散した時から、彼と相入れることはないと考えていることも事実。しかし、だからと言って彼の全てを否定したことは一度もない。私を「親友」と言ってくれたあの時から、彼の仕事を度々横で目にしてきたが、彼は決してそんなことはしない、そう確信するだけの物が、かつての私達の間には──。

「……話は概ね理解しました。確かに私と飴村君は敵対関係にあります。しかし戦うならラップで正々堂々と、です。そんな卑怯な真似をしたならば、それは貴方がされたことと同じことになります。貴方の個人的怨恨に、私は関わる気はありませんよ」

ご馳走様でした、コップを置いて立ち上がるのと同時に、男が躙り寄って来る。その目は怒りに焦点が合っていない。先程の柔和さは欠片もなく、その二面性はなかなかに興味深いと感じるに値する物だった。

「クソ、人が下手に出てるからって調子に乗りやがって…!」
  

〈 敵サイド選択肢 : 以下のどれかを選べ 〉

・刃物を出して脅す

・手に入れた違法マイクを使ってラップバトルをし従わせる

・従わなければシンジュク中央病院を爆破すると言って脅す

   
神宮寺寂雷に向けた、敵サイドのバトルリリックを募集。
以下の投稿箱へ、「敵サイドラップ」と表題をつけ【2019.09.14.23:59】までに投稿せよ。

 

【後編:寂雷SIDE】は、9/16にアップ予定